製造業のサービス化(サービタイゼーション)の具体的アプローチ方法

2024.09.03

製造業でサービス化を目指しているとおっしゃるクライアントさんに
「サービス化とは何ですか?」とお尋ねすると
「そうですね、実際のところ何なのでしょう?」という返答がよくあります。

「製造業のサービス化」という言葉やイメージだけが先行し、具体的な内容はよく分っていないというケースが多いのが現状です。

この記事では「製造業のサービス化」とは何なのか、そしてその具体的アプローチ方法についてお伝えしてします。

■ 製造業のサービス化の答えはひとつではない

あらためて「製造業のサービス化」とは何なのか整理します。

「製造業のサービス化」とは、端的に言えば、

商品(プロダクト)の製造販売にサービスの要素を付加するビジネスモデルのことを言います。
製造業者が商品を作るだけでなく、「サービス事業」にも関わっていく形態を指します。

「製造業のサービス化」は「”モノ”から”コト(体験)”へ」というキーワードにも置き換えられます。
また「製造業のサービタイゼーション」などとも言われます。


この ”サービス事業” にどう取り組んでいくかが製造業の方々にとって 悩みどころになります。
誰もがサービス事業化への進め方の答えを知りたいですし、「製造業のサービス化」のためには何をすればよいのかとコンサルタントに具体的な答えを求める企業さんも実際にあります。

しかし、”サービス事業” は 「企業によって答えが様々でひとつの正解というものはない」 というのが私の考えです。
サービス事業への取り組み方は企業によって異なり、唯一の正解はありません。
そのため、正解を探しに行くのではなく、自分たちにあったサービス事業を自分たちで考え、企画していくことになります。
重要なのは、自社に適したサービス事業を自ら考え、企画することです。

私はソニー在職中、いわゆる ”製造業のサービス事業開発” を担当した経験があります。 B2B業務用分野に携わったときは、”サービス&ソリューション事業部” や ”サービスビジネス部” という名称の部署で、まさにサービス事業化や「コト」事業を立ち上げることが ミッションでした。当初は何から手をつければよいのか全く分かりませんでしたが、試行錯誤を繰り返し、実際にさまざまな立上げを 経験するうちに見えてきたものがあります。

それは 「モノ」、「コト」や「サービス」などのワードにとらわれず、
「自社が持つ価値」や「開発した価値」をどのように提供するのかを考えることの重要性です。

実際に進めてみて、結果的に「モノ」のみの提供をすることがベストのこともあれば、「サービス的な事業」と共に提供することがよりよい方向性であることが見えてくることもある。
つまりそれぞれの事業によってどのような価値をどのように提供するかは違ってきます。

初めからサービス事業化や「コト」事業を立ち上げることが 目的になっていては 本当にお客様に提供できる価値が何か、見失ってしまいます。 サービス化すること自体が目的になってしまっては本末転倒です。 それは避けなければなりません。

では、具体的にサービス事業をどのように展開していったらいいのかについて考えていきます。

■ 事業のサービス化への3つの視点

サービス事業を展開する際は
お客様への価値の提供について以下の3つの視点から考えることが有効です。

1. 自社のどのような価値を提供するか
2. どのような方法で提供するか
3. どのような方法で対価をいただくか

詳しくみていきましょう。


1. 自社のどのような価値を提供するか

自社がどのような価値を持っているのか、提供できるのかを洗い出してみます。

【モノという価値】
・形のあるモノ(ハードウェア)
・形のないモノ(ソフトウェア)
・ラインアップ (バリエーション、上位機種 など)
・アクセサリ、オプション
・消耗品
など

例えば消耗品ビジネスでは、ジレットの替え刃モデルが有名で ”ジレットモデル” とも言われます。
プリンタのインクも消耗品ビジネスにあたります。

【ライセンスという価値】
・特許、商標、意匠などの知的財産
・技術
など

権利をライセンスで提供するのも価値提供のひとつです。
AIエンジンも権利に入れてもいいかもしれません。

【労働という価値】
・プリサポート(事前のサポート)
・アフターサポート
・問い合わせ対応
・保守
・メンテナンス
・出張対応
など

サポートなどの労働も価値となります。
有償か無償かはいったん考えずにピックアップしてみます。

製造業に関係する価値がたくさんあることが分かります。
サービス化や ”コト” 事業の立上げを考えていらっしゃる場合は
まずは自社で考えられる価値を
「有償か無償か」
「できるかできないか」
という問題はひとまず横において、具体的に洗い出してみるとよいかと思います。

2. どのような方法で提供するか

【所有or利用】
お客様への価値の提供の仕方は大きく次の2つに分類されます。
・所有
・利用

所有か利用かはその所有権が誰にあるかで決まります。
これからの時代は 「モノの消費が所有から利用へと変わる」と言われており、この利用の仕組み自体を ”サービス事業”と呼ぶことも多くあります。

最近の潮流では 「所有ではなく利用だ!」と傾いていますが、所有するのか利用するのかは「顧客がどちらを望むか次第」というのが、私の意見です。

例えば、最近の車事情。 注目されているカーシェアリングは確かに便利ですし、 利用する人も急増しています。しかし、やはり所有したいという人もまだ多くいるわけです。

一方で、これまで「顧客が所有する形」 でのみビジネスを行ってきている場合 には「顧客が利用する形」での提供方法ができないか? と考えてみるのは一案です。
また「顧客が利用する形」の方がより顧客にメリットがあるのでは? と探ってみるのもよい手です。
これが まさに”サービス化”です。


さて前述したように お客様への価値は次の3つが想定されます。

・モノ(形のあるプロダクト、形のないソフトウェア)
・ライセンス(権利)
・労働

この3つの価値を顧客が所有するのか利用するのか、あるいは両方にするのかについて検討することが重要です。

サービス事業化やビジネスモデルのヒントにつながることがあります。
ただし、労働はほとんどのケースが利用になります。

【提供方法と課金】
ここでひとつ大切なことをひとつお伝えします。
「所有」か「利用」か提供方法を決める時点で、課金の方法も一緒に決定しないでください。

「売り切り」や「サブスクリプション」などの課金の方法を一緒に検討してしまうと他の内容と混同し、混乱してしまいます。

世の中サブスクリプションが流行りだから、サブスクリプションありきで考えてしまうということにもなりかねません。

では次に課金の方法について考えてみましょう。


3. どのような方法で対価をいただくか

課金方法をまとめると以下のようになります。

Ⅰ 売り切り型(フロー型)
Ⅱ 継続課金(ストック型)
  ①定額課金(サブスクリプション)
  ②従量課金

課金方法は「売り切り型(フロー型)」と「継続課金(ストック型)」の2つに分けられます。

売り切り型は継続性のない都度課金です。
継続課金はその名の通り顧客から継続して売り上げが発生します。

更に、継続課金(ストック型)は2形態に分かれます。

【定額課金】
ここのところサブスク(サブスクリプション) という言葉をよく耳にしますが、定額課金のことですね。
顧客との契約で、毎月や毎年ごとに一定額が課金される方法です。
スマホの基本料金がサブスクにあたります。サービス内容によっていくつかのコースに分かれていたりもします。

【従量課金】
従量課金は 端末数や人数、使用量などによって課金される方法です。
電気代や水道代などは従量課金となります。
企業向けのサービスで、PC端末数での課金や登録人数での課金なども従量課金になります。

一定額の基本料金(サブスク)に 従量課金がミックスされるケースもあります。
リカーリングという言葉を聞いたことがある方も いらっしゃると思います。
これは継続課金のことを指すこともあれば、継続課金の従量課金のことを指す場合もあります。

リカーリングの代表例としてよく取り上げられるのが (サービス事業ではないですが)ひげ剃りのジレットです。ひげ剃り本体は安く提供し、替え刃で儲けるビジネスモデルで”ジレットモデル”とも呼ばれています。
プリンターなどもこのジレットモデルです。プリンター本体は安いのに純正のインクは高いですよね。

継続課金のメリットとして、企業と顧客のつながりが持続することが挙げられます。
一度契約するとほとんどの場合一定期間継続が続きます。携帯のキャリアが必死になって乗り換えキャンペーンを行い、契約者を獲得するのはこのためです。

”所有”から“利用”へという最近の潮流。
これは “売り切り”から“継続課金”への変換により顧客とつながることができることが大きな理由です。売り切りの場合は売ったら終わり、 ”ユーザー登録を個別で行う” などの手段をとらない限り どんなユーザーがどのように使っているかの情報がとれません。

一方で、継続課金の契約でつながっているとどのユーザーがどのように使っているかという情報がとれるようになります。新製品やグレードアップなどのプロモーションを ダイレクトに届けられるなどのメリットも生じます。

このように課金にもいくつかのタイプがあり、どのタイプでお客様に価値提供するのが最良かを考えます。
これにより、顧客の利用状況の把握や効果的なプロモーションが可能になります。

■ まとめ

新規事業開発でよく聞かれるのが 「モノからコトへ!」 「サービス化せよ!」 「これからはサブスクだ!」 というキーワードです。

 しかし具体的には何をすればよいのか 分からなくなっているケースが多々あります。

 キーワードありきで検討を進めずに、 自社の価値を以下の3つの視点から分析し、最適な形で顧客に提供することが重要です。

1. 自社のどんな価値を提供するか
2. どのような方法で提供するか
3. どのような方法で対価をいただくか

これらの視点から考えることで、具体的な事業の形が見えてくるはずです。自社の強みを活かしたサービス化戦略を立てていきましょう。

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