企画のヒントはここにもある!ステークホルダーベネフィットに目を向けよう
新規事業・新商品の企画を推進するにあたって、エンドユーザーのメリットやベネフィットを考えることは最重要課題です。
しかし、エンドユーザーだけでなく更にステークホルダー(利害関係者)のベネフィットに目を向けるとにより、更に新たな方向性が見いだせることが多々あります。
このコラムでは実際に私がソニーで経験した事例をご紹介します。ステークホルダーベネフィットに目を向けたことにより新たな企画の方向性を打ち出すことができた事例で、企画を成功に導くヒントになればと思います。
目次
■ ステークホルダーベネフィットを考える重要性
企画を立案・推進するにあたっては、まず企画する事業や商品の先にお客様を念頭に置かなければなりません。
誰に対してのサービスなのか、誰が買ってくれるのか。
まずはお客様を設定しなければ企画は生まれません。
お客様というと、実際にサービスを受ける人、商品を買ってくれる人、すなわちエンドユーザーを思い浮かべますが、実は企画する側にとってはエンドユーザーだけがお客様なのではありません。
そのサービス商品に関わる関係者、つまりステークホルダーすべてがお客様と捉えるべきです。
様々なプロジェクトを進める上で市場構造を把握することは必須ですが、市場構造の中に位置するステークホルダーのベネフィットを明確に定義しておかないと、商品やサービスがエンドユーザーまで届きません。
ステークホルダーのベネフィットが明確になると差別化につながり、新たなビジネスにつながっていきます。
ベネフィットの考え方は、エンドユーザーであろうと、ステークホルダーであろうと同じです。
① 誰の
② どのような課題を
③ どのように解決するのか
これらを常に頭においておきましょう。
では次の章から、ステークホルダーベネフィットに目を向けたことにより、ビジネスにつながった体験談をいくつかお伝えしていきます。
■ 実例① 記録メディア商品企画×物流
ソニーで記録メディアの商品企画を担当していたときの実体験です。
記録メディアが、スーパーマーケットやコンビニに並び始めたころ、営業担当とバイヤーさんを訪問しました。具体的な話を聞いてみると、店頭用POSコードだけではなくて、運送用のカートンボックスに物流用のバーコード(ITFコード)をつけてもらえるだけで、倉庫の作業が格段に効率が上がるというものでした。
営業の担当に聞いてみると、以前から事業部には伝えているが、コストアップになるからと聞いてもらえないとのこと。
たしかに何銭単位でコストダウンの努力をしている記録メディアで、新たなバーコードのシステムを導入するのは相当コストがかかります。
ただ今後確実に伸びていくと思われるコンビニやスーパーマーケットの対応を先行できることはメーカーとしては大きなチャンス。
私もまだペイペイの一担当者でしたが、対応するので詳しく教えてほしいとお願いし、バイヤーさんを通していろいろ教えて頂き、”業界初” で物流バーコードに対応しました。
当然、コンビニやスーパーマーケットでは、物流効率の良いメーカーを取り扱ってくれ、おかげさまでシェアがぐんとアップ。
他社さんも追従されましたが、導入に半年から1年はかかったと思います。
ただし社内への説得は本当に大変でした。
販売会社のコミットもとりつけ、事業部長の説得はできたものの、工場長の説得に相当苦労した記憶があります。
工場長からは、「設備投資が絡む案件をいち担当者だけで説明に来るな」と怒られ、企画部長に電話すると「工場長からOKもらうまで帰ってくるな」と言われる始末。
最終的には業界初の対応で大成功となり、関係部署からも感謝され、企画冥利につきる仕事のひとつでした。
商品やサービス自体に特長が見出せなくても、途中の物流や関連するステークホルダーのベネフィットをつくることで、商品企画や新規事業の価値が刺さることがよくあります。
■ 実例② 監視カメラマーケティング×システムインテグレーター
監視カメラ事業の技術マーケティングを担当していた時の体験談です。
当時、監視カメラの事業拡大のために様々な戦略が練られました。
ソニーも当時は単品商品ビジネスが主流。
監視カメラ事業、特に本社の事業部ではどうしてもエンドユーザーのことばかりに意識が向いて、高画質、高品質なカメラを開発することのみに集中してしまっていました。
ところが、販売会社と話してみるとカメラのブランドを選んでいるのは、エンドユーザーというよりはむしろほとんどはその手前であるシステムインテグレーターであることが分かりました。
なるほどと思い、システムインテグレーターを訪問していろいろ聞いてみると、開口一番こう言われました。
「ソニーさんの画質はNo.1だけど、監視カメラは画質だけじゃないですよ。。」
監視カメラはシステムとして納品されるので、カメラに接続されるサードパーティー・ソフトウェアと
接続検証がされていること、また、その品質が安定していることが重要です。
カメラ自体の性能や品質はもちろん大切ですが、それと同じくらいあるいはそれ以上にシステムとしての接続品質や安定性が重要だと、力説いただいたわけです。
お叱りに近い状況でしたが、システムインテグレーターの立場になれば当然ですよね。
監視カメラベンダーは、大きく分けるとソニーのようなAV機器系から参入した企業と、IT系から参入した企業があります。
これらソフトウェアとの接続性やシステムソリューションとしての感覚は、IT系企業にはごく当たり前のことですが、AV機器系のソニーには全くと言っていいほど分かっていませんでした。
そこで今度はサードパーティ・ソフトウェアベンダーを訪問していろいろお話を伺いました。
・ソフトウェア接続のための技術情報を整備してほしい
・接続検証テストのサポートを充実させてほしい
・エンジニアによるサポートを充実させてほしい
このようなご要望がたくさん出てきました。
我々にとっては課題の山でしたが、見方を変えると宝の山です。
エンジニアの中には技術パートナー・サポートの重要性を理解している人もいて、彼らといっしょに、
ソフトウェアとの接続性向上のプロジェクトを立ち上げました。
・技術ドキュメントの整備
・エンジニアサポート体制の構築
などを行い、重要パートナーはエンジニアと実際に訪問して現場をサポートしました。
お陰様でサポート体制がしっかりと整い、パートナーからは感謝されることとなりました。
最終的に、最大手パートナーからグローバル年間アウォードまで頂くことに。
あわせて、システムインテグレーターからも感謝いただき、ビジネスを前進させることもできました。
エンドユーザーだけに意識が向いてしまい行き詰まっている場合には、市場構造を分析し、ステークホルダーの課題を解決していくことで、ビジネスが前進することが多々あります。
■ 実例③ ファーストワンがステークホルダーベネフィットにつながる例
私は “ファーストワン(世界初、業界初)をねらう” というコンセプトで活動していますが、ファーストワンのコンセプトがステークホルダーにも有効であることを実感したエピソードです。
当時監視カメラに接続するソフトウェアパートナーさんたちは、その検証に莫大な工数がかかり、大変な思いをしていました。
ご存じの通り、駅や町中にはいろいろな種類の監視カメラがあり、その形状は、丸いもの、四角いもの、クルクル回るタイプと種類も豊富です。
さらには解像度や画質グレードにも違いがあり、ソニーでも常に30~40タイプのラインアップを持っていました。
市街監視用や大規模なビルなどの監視カメラシステムでは、何千台、何万台というカメラが接続されていますが、それらのカメラに組み込まれているソフトウェアは年に数回バージョンアップされます。
パソコンやIT機器のソフトウェアバージョンアップと同じです。
ソフトウェアパートナーさんはこの数万台というシステムを常に安定して稼働させる必要があるので、カメラのソフトウェアがバージョンアップされるたびに、この30~40ある監視カメラすべての機種と接続検証を行うわけです。
そしてカメラが接続検証されると “Supported” や “Tested” という情報をホームページなどに公開します。
監視カメラメーカーは大手だけでも10社以上存在しますが、ソフトウェアパートナーさんたちは本当に莫大な工数をかけてこの接続検証をされており、いつもそのことを課題にされていました。
あるとき海外のパートナーさんとこの工数を少しでも軽減できないかとディスカッションをしました。その折に「ひとつのカメラのある機能が検証されたら他のカメラも検証したことにできると工数削減になるのだが。」という案がでました。
それを受けて、私たちのチームのエンジニアが、「それならソニー側でその組み合わせをすべて整理して情報提供したらどうか」とのアイデアを出してくれました。
パートナーのエンジニアも「それはいいですね! それがあるととても助かります!」との回答。
他社ではどうなっているのか尋ねると「そこまでやってくれてるカメラメーカーはまだありません。」
とのことでした。
「と言うことは、この仕組みは、Industry First(業界初)になりますか?」
「たぶんそうです。」
私を含めソニーメンバーはこの言葉にモチベーション全開です。
「ではうちが最初にやるので、協力してください。他にはまだ言わないで!」と念押しし、最終的にパートナーさんのエンジニアの協力もいただいて、
「あるカメラで検証されたら、他のカメラも設計的にサポートされたことをソニーが保証する」という
“ Supported by Design”
“ Tested by Design”
という仕組みを業界で初めて整備しました。
さて、ここから、ファーストワン(業界初)の威力が発揮されます。
ソフトウェアパートナーさんを訪問するとき、エンジニアの方々は超多忙なため、なかなかミーティングには参加してくれないのですが、「“業界初”のテスト方法を導入します」と案内すると、超多忙にもかかわらず、ビックリするくらい多くのエンジニアの方々が参加してくれました。
説明の後は「Industry first(業界初)、すごい! Great!!」と握手を求めに来られました。
私自身も ”ファーストワン” にここまで威力があるとは驚きでした。
エンドユーザーだけでなく、ステークホルダーの方々にとっても彼らのベネフィットにつながる何か新しい “業界初” の取り組みを探してみる。
こんなことがビジネスきっかけづくりになる可能性を持っています。
■ まとめ
新規事業、新商品の企画を推進するにあたってはエンドユーザーだけでなく、ステークホルダー(利害関係者)のベネフィットに目を向けると、新たな方向性が見いだせることが多々あります。
ステークホルダーのベネフィットに目を向けることが差別化につながり、ひいてはビジネスにつながることになります。
企画推進では、是非エンドユーザーだけでなく、ステークホルダーのベネフィットにも目を向けてみて下さい。
ビジネスの可能性が広がります。
あなたのビジネスの参考になれば嬉しいです。
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