ソニーのUSBメモリー成功に見る、画期的なアイデアの出し方とは?
今回は商品を改良して、画期的なアイデアとする方法をお伝えしたいと思います。
例示するのは、ソニーのUSBメモリー商品企画の体験談です。
USBメモリーが日本で導入されて数年たった2006年ごろの話です。
ソニーは記録メディア事業の新規事業としてUSBメモリーを立ち上げていましたが、他社に比べてどうしても価格が高くなってしまうこともあり、シェアが下がってきていました。
「このままシェア低下が続くなら、赤字の解消は難しいだろう。必ずシェアを上げろ! ダメなら撤退もありうる」という騒ぎになりました。
私は別のプロジェクトを担当していたのですが、幸か不幸か、このUSBメモリーの商品企画に呼び戻されました2000年頃日本にUSBメモリーを最初に発売した2社のメーカーのひとつがソニーで、この初代モデルの商品企画を担当していたことが、呼び戻された理由のひとつだったのかもしれません。
すでに競合も多々いる中でUSBメモリーのシェアをどうやって上げるか?
企画担当は、私の右腕として来てもらった Sさんの二人だけ。プレッシャーもあり、最初は悶々とした日々でした。
こんな困ったときの王道は、「ユーザーに聞く」です。
5~6人のグループインタビューを3グループくらい実施しました。
ユーザーにそのまま答えを聞いても出てこないことは分かっていたので、
・どんな風に使っているか
・どんなことに困っているか
などを座談会のような形で聞き取りました。
その中で出たたくさんのキーワードの中から、
・落とした時に困る(情報セキュリティ)
・キャップをすぐになくしてしまう
という2つのお困りごとを商品企画のヒントとしてピックアップしました。
そのヒントを足がかりに、社内の人を集めてブレインストーミングを実施し、20くらいのアイデアを出し、さらに5つほどを試作品におこしました。
それらをもって、再度グループインタビューを実施し試作品への意見を聞いてみました。
私たちの本命は、鍵メーカーさんに協力をいただいてつくったダイヤル鍵付きのUSBメモリーだったのですが、残念ながら、これらは全くうけませんでした。ある参加者の女性からは、「何これ、ありえない! ドン引き!」と失笑される始末でした。本命だったのに、とてもがっかりしました。いまだにこのときのことは鮮明に覚えています。
さて、そのインタビューで予想外に評判が良かったのが、「キャップをすぐになくしてしまう」という声をベースにしたアイデアから生まれた試作品です。
ノック式ボールペンをヒントにした、ノック式キャップレスUSBメモリーの試作品でした。
実は、メーカーの企画である我々からすると、正直USBメモリーのキャップが無くなっても、特に問題にならないので、全く重要視していませんでした。
しかし、参加者からは「あっ、これいい!」「新しい!」と、とても好評でした。
さらには、「片手で扱えるからいい!」という、これまた我々はそこまで思ってみなかった顧客ベネフィットの反応があり、最終的にこのスタイルで行こうと決めて企画を進めました。
正直、発売するまでは本当に売れるか不安でたまりませんでしたが、おかげさまでヒットモデル、さらには15年以上もそのままで販売される超ロングランモデルとなり、会社にも利益貢献することができました。
容量はずいぶんと増えましたが、今でもそのままのデザインで販売されているモデルです。
https://www.sony.jp/rec-media/products/USM-U/feature_1.html
この画期的アイデアが出た理由は、ユーザーにしっかりヒアリングしたこと。そして、相手が言葉にしない行間を読んだことです。
しかし、画期的アイデアであっても、苦労はつきものです。このモデルもボールペンのようなノック機能をUSBメモリーに実装するのに、さらに小型に落とし込むのに、メカエンジニアの必死の努力がありました。
当然、機能が追加されるためコストも上がります。それでなくてもコストが課題になっているので、事業部長は猛反対です。事業部長を説得しない限り、このアイデアは世に出ることはなく、机上の空論に終わってしまいます。
そこで販売会社のコミットをとりつけることにしました。
なんとかギリギリ行けると思われる価格を設定し、販売会社に数量アップをコミットしてもらい、事業としてもコストを吸収できる、利益が上がる、赤字解消のストーリーを立てるわけです。
事業部長からは、「 ダメだったらお前が責任とれ!」と言われ、そう言われたらこちらも「 はい、そのつもりです! 」と言うしかありません。
今となっては思い出話ですが、画期的アイデアをそこで終わりにせず、実現させるためには、こうやってまわりを巻き込む力も重要になります。
画期的なアイデアを引き出す方法として、グループミーティングでのヒアリングにコーチングの活用もおすすめします。
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